棚井文雄

ニューヨーク物語 1「New York デジタル写真事情」

ニューヨーク物語 1 「New York デジタル写真事情」

 早いもので、NYに活動の場を移してすでに数年が経ちました。それまで、フィルムでしか撮影していなかった作品も、コピーして何処へでも持ち運びが出来るデジタル写真は、とても便利だと感じるようにもなりました。しかし、今なお、フィルムの再現力を考えると、使い慣れたフィルムカメラ「ライカ、ローライフレックスで撮りたい」、と思う事もしばしばです。私が仕事をしてきた日本のある雑誌は、その写真印刷の美しさでも定評がありますが、いまでもフィルムでの撮影が許されています。JPA会員の3割近くの方々は、現在もポジフィルムで撮影されている、と丹羽理事からも伺っています。今なお、混在して使われているフィルムとデジタルについて、写真の印刷を大切にしている「アサヒカメラ」がどのように対応しているのか、NYのデジタル事情も含めて私の最近の経験からお伝えしたいと思います。

先頃、「アサヒカメラ」からグラビアページへの作品掲載のお話をいただきました。しかし、海外で活動している私にとっては、困った事が起きました。指定されたその作品は、モノクロフィルムで撮影したもので、手元には印刷原稿用に渡せるプリントが、依頼のページ数分ありません。ネガは日本で保存していて、一時帰国してプリントする時間もなかったのです。幸いな事に、そのネガフィルムからスキャニングしたデジタルデータは全て揃っていました。当初、8ページ分全てをデジタルデータから印刷してもらえば良いと考えていたのですが、結果的には、6ページ分をプリントから、2ページ分をデジタルデータから印刷するという方法を取ることになりました。プリントを見ながら印刷の仕上がりについて直接話が出来ない状況の中では、「現物」、つまりプリントを使用する方が、より忠実な再現が出来ること、そしてリスクが少ないという理由からです。一冊の雑誌の中で、デジタルデータとプリント、ポジフィルムが混ざることはありますが、同じシリーズ作品を異なる原稿から印刷することは、想像も出来ませんでした。なお、全てデジタルデータから印刷する場合でも、仕上がり見本としてプリントを出力して添付する事が望ましく、多くの写真家がその方法を取っています。

NYのデジタル化は間違いなく進んでいます。多くの写真賞も、デジタルデータで審査され、ギャラリー、美術館でもたくさんのデジタルプリントが展示されています。インクジェットプリントについては退色の懸念もありますが、いまや一概にはそうとも言えなくなって来ている様です。インク、ペーパー、プリンターの組み合わせによっては、とてもクオリティーの高いプリントもあり、美術館へのコレクションや、アートオークションでも取り扱われています。一方で、撮影は全てフィルムで行い、それをスキャニングしたデジタルデータを納品する、という方法を使って仕事をしているカメラマンもいます。クライアントがフィルムでしか出せない画像イメージを気に入っているからです。写真のレタッチ会社はたくさん存在し、カメラマン事務所のスタッフとして働いているレタッチャーがいたり、共同で事務所を構えている事もあります。そして、撮影スタジオにレタッチャーが同席し、その場で写真を調整してクライアントに見せています。NYの街中で見かける写真家たちは、圧倒的にDSLRカメラ(デジタル一眼レフをDigital Single-Lens Reflexの略称で呼びます)を持っている人が多いのですが、最近ではライカM9を見かける一方で、M6を使い続けているケースも見受けます。ヨーロッパからの旅行者の中には、オリンパスOM-1や、Nikon(NYではナイコンと呼ばれています)FMを使っている人もいます。そして、いま一部の女子留学生の間で人気があるのは、フジフィルムのインスタントカメラ・チェキです。「デジタルカメラと違って、写真が一枚しか出来ないことが好き」と言っています。でも、もちろんデジタルカメラも持っているんです。

「アサヒカメラ」の色校正(試し刷り)がNYに届きました。異なる原稿から印刷したことが解らないほどの仕上がりです。経験豊富で印刷にくわしい編集者が担当してくれたお陰です。「アサヒカメラ6月号」、作品タイトル / Signsで掲載されています。

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