棚井文雄

ニューヨーク物語31「Lotteryの夢」

ニューヨーク物語31 「Lotteryの夢」

 Lottery / ロトリー(通称-ロト、アメリカの宝くじ)は、日本の「ロト6」「ロト7」「ミニロト」と比較すると、桁違いの賞金を獲得できる可能性がある。その額は、しばしば$100 Million(約110億円)になることもある。当選者が出なければ金額が積み重なっていくキャリーオーバーと呼ばれる仕組みだが、日本のロトでは上限賞金が定められてしまっているようだ。
 ニューヨーク在住の友人は、ボロボロのノートを肌身離さず持ち歩いている。そこには、10年に渡る「Lottery」の当選番号のデータが記載されているらしい。彼女はそれを元に、週二回欠かすことなく「New York LOTTO」と「Mega Millions」を購入している。ある日、彼女の旦那さんと共に知人宅のホームーパーティへ向かう途中、「停めて! ロトを買うのを忘れていた」とそのノートを片手に車から駆け出したことがあった。これまでの最高当選額は、100万円相当(日本円)で、近々、現在の家を売り払って引越しを考えているとのことだった。

 

 

©Fumio Tanai /  HJPI320610000334 

 あるとき、仲間内でこんな話題で盛り上がった。「もし、ロトで高額が当たったらどう使うか?」というテーマだった。ある者は、当時ニューヨークに寄港していた、話題の巨大豪華クルーズ船でのカリブ海航行を皮切りに世界一周旅行をしたいと語り、ある者は、セレブへの憧れからか、彼らと同じ高級アパートに住み運転手付き高級リムジン車を所有したいと言い、またある者は、摩天楼(超高層建築ビル)を購入し、自分はペントハウスの部屋に住みたいと語った。それは、どんな時にも常に自分にもチャンスがあると考えているニューヨーカーの姿であったり、その時々の所得に合わせて引越しをする人々が存在する住宅事情にも重なるものがあった。
 そんな中、僕は迷わず「出版社を作りたい」と発した。思いつきだったのかも知れないが、その理由をすらすらと語ることができた。「友人の写真編集者などと共に、世界の写真家の中から商業マーケットには乗り難いが、僕の考える本当の写真家を探し出し、彼らの作品で写真集をつくりたい」「そして、世界中のギャラリーやキュレーターにそれを送りたい」「こんな素晴らしい作品を創っている写真家がいるんだと示したい」「こんな出版社が企業として長続きするはずはないから、だからこそロトの賞金を使ってすばらしい写真集を創る」「編集者などの審美眼もそこで発揮してもらいたい」と。これが、時折近所のスーパーで$1.00_(110円)を投じていたロトが当選した時の、僕の「夢」だった。しかし、僕はこの夢をすっかり忘れていた。自身が出版元として、渡辺澄晴写真集「New York 1962-64」に取り組んでしばらくするまでは…。

 渡辺澄晴氏の初めての写真集「ワシントン広場の顔」は1965年に出版されているが、僕がそれを目にしたのは数年前であり、隅々まで見つめたのはニューヨークから帰国してからのことだった。ページをめくっていくと、その時代のニューヨークへ、写真集の中へすぐにでも飛び込んでみたくなった。同時に、その作品たちの前後のコマ(写真)や、書籍のサイズにあわせてトリミングされる前のノートリミングの写真への想いが巡った。もし、僕が渡辺氏の写真集を手がけるなら…と、たくさんの構想が湧いてきたのだ。これは、ニューヨーク滞在中に写真の「編集」というものを学んだことと関係があるのかも知れない。とにかく僕は、納得のいく写真集に仕上げるために、自身の日本での新たな活動のために準備していたものを、渡辺氏の写真集出版に使うことを決断した。「見つけてしまったものはしょうがない」「いまやるしかない」、そう思った。
 出版元になるため、すぐに出版社登録を行い図書コードを取得した。そして「部数限定の写真集」の制作プロジェクトを開始した。実はこの時、新たに僕の中に「写真アーカイブ」という考え方が入り込んできていたこともあり、1960年代前半のニューヨークを撮影した数少ない日本人の作品として、後世に伝える必要があると強く感じたのだ。完成した写真集は、海外の美術館やギャラリー関係者にも送ること念頭に英語表記を付すことも決めていた。
 こうしてすすめてきた渡辺澄晴写真集「New York 1962-64」制作プロジェクトは、いつの間にか、友人、知人たちに支えてもらいながら、かつてニューヨークの仲間たちと語り合った「Lotteryの夢」に近い動きだということに僕はようやく気がついたのだった。

2018.7.18

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