棚井文雄

ニューヨーク物語 16「ニューヨークの美味しい”ふゆ”が、想い出させてくれるもの」

ニューヨーク物語16 「ニューヨークの美味しい”ふゆ”が、想い出させてくれるもの」

 先月の中頃、日本に住む友人から「柿の収穫中です。」というメールが届き、親戚の家で柿やビワの実を捥いで食べることを楽しみにしていた子供時代を想い出した。

 実家の一隣にも大きな柿の木があり、年に一度お裾分けをいただいていた。小学2-3年生の頃だっただろうか、自分でも実を生らせてみたくなり、柿とビワの種をそれぞれ大きな鉢に植えた。柿は上手く育てることが出来なかったが、ビワの木は3-4年をかけて60-70cmまでに成長させた記憶がある。「桃栗3年、柿8年」という位だから、ビワも8年もすれば実を生らせるに違いないと楽しみにしていたが、その願いは叶うことなく終わった。
 ある日、近所の子供たちがボール遊びの最中にビワの茎を折ってしまったのだ。僕はその木を抱きながら、薄暗くなった部屋で電気も灯さずにいつまでも泣いていた。そして、あれからビワを食べなくなってしまった。先頃、ニューヨークで食する機会があったものの、やはりあの想い出のように渋味が強かった。

 この季節になると、こちらのストアーにも柿が並ぶ。富有柿(注1)に由来するのか「fuyu(ふゆ)」という名で知られている。この文字を見る度に、「今年もあの寒さが近づいて来たかぁ」と、あるシリーズ作品撮影の為に真冬の街角に何時間も佇んでいた日々を想い出す。
 フィルム時代、カメラには多くの金属が使われており冬場の撮影では冷たくつらかった記憶がある。しかし、あの握った瞬間の冷やっとする金属特有の感触と、視覚的な質感があってこそ道具として愛着を持てたように感じる。それは、幼年期のブリキのオモチャの感触や体育館のトタン屋根が作り出す雨音のような、ある瞬間に心地よく呼び起こされる感覚記憶に似ている。現在、実家のドライボックスの中に眠っている僕の愛機たち、ニコンF2、ライカM6、オリンパスOM-4に久し振りに触れてみたくなった。

(注1) 富有柿/ふゆうがき : 岐阜県瑞穂市が発祥とされている甘柿
2014.11.6

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