棚井文雄

ニューヨーク物語 3 「野田秀樹 THE BEE」

ニューヨーク物語 3 「野田秀樹 THE BEE」

野田秀樹脚本/演出/出演の「THE BEE」が、NYのジャパン・ソサエティーで上演された。これは、筒井康隆の短編小説「毟(むし)りあい」をもとに、野田秀樹氏がコリン・ティーバン氏と共に英語の脚本を作り上げ、全編英語での舞台化を試みた作品だ。

 平凡なサラリーマンの井戸(キャサリン・ハンター/英国「オリヴィエ賞」受賞女優)が6歳の誕生日を迎える息子へのプレゼントを手に家路を急いでいると、警官たちが非常線を張り、マスコミが押し寄せている。聞けば、脱獄犯が民家に押し入り、女と子供を人質にして立て籠っているらしい。途端、リポーター達に取り囲まれる井戸。何と人質は彼の息子と妻だったのだ。執拗にマイクを向けるマスコミと役立たずの警察。井戸は脱獄犯の家に向かい、同じ歳の子供とストリッパーの妻(野田秀樹)を人質に自ら交渉を始める。しかし、日常と非日常は入れ替わり、被害者であるのか、加害者であるのかさえも次第にわからなくなり、やがて報復の為に妻に乱暴をし、子どもの指を切り落として行く…。
さて、ここに掲載されている写真について興味を持たれる方も多いと思うので、少し触れてみたい。これらの写真は、公演直前の「フォト・コール」の時に撮影したものだ。「フォト・コール」とは、上演中は撮影が出来ないことが多いため、事前にメディア向けに行う撮影会のことである。助手時代、私が師事していた写真家は、歌舞伎役者や女優の撮影を手がけており、やはり同じ様に撮影が行われていた。上演中の撮影では、望遠系ズームレンズと、ISO160のタングステンフィルムを増感して使用することが多かった。今回の「THE BEE」のフォト・コールでは、4シーンが2回ずつ演じられた。舞台の内容にもよるが、このようにしてメディア用写真が撮られる場合もある。
助手時代から歌舞伎座や新橋演舞場での舞台を観る機会に恵まれた私は、その後も文楽などの様式美や、ドキュメンタリー映画に触れることが多かった。その為、野田作品を観るのは今回が初めてで、独特な演出から放たれる世界観は、これまで私が触れて来た作品とは異質な物であった。「肉体ですべてを表現する」と称される野田氏の世界を他の作品を観ることでもっと知りたいと思った。
思えば写真家達は、フィルム時代、ライカ版(135ミリ)やスクエアーサイズ(6×6)のフレームの中に人やモノを構成して写真作品を創ってきた。それは、舞台をどう演出するのか、それと通ずるものがあると私は考えている。場所(舞台)を決め、登場人物、モノをどう配置するかをイメージし、その瞬間を待つ。写真家も色々なものに触れることによって見聞を広げ、表現とは何か、美とは何か、ということを考えるきっかけと刺激をもらうことが大切であろう。

 

 

 

 

※「THE BEE」は、ニューヨークを皮切りにロンドン/香港/東京を巡回する。
東京公演:2012年2月24日(金)~3月11日(日) 水天宮ピット

果てのない報復劇。日常と非日常の危うい境界線、平凡な人間が隠し持つ怒りと憎悪…といった人間の心理の複雑さに深く切り込んだ内容でありながら、そこここでダークな笑いを仕込んだコメディーでもある。(プレスリリースより)

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