ニューヨーク物語 2 「”直感と実行あるのみ”写真家・森山大道トークショー in NY」
昨年11月、森山大道氏のトークショーがNYのジャパン・ソサエティーで行われた。「量のない質はない」と語る森山氏は、以前、一日にコダックトライXを20本以上撮影していた。10年ほど前、当時、四ッ谷にあった森山氏の事務所を訪れ、出来たての色校正を見せてもらった事がある。オリンパスのコンパクトカメラで撮影されたその写真は、例のごとく、増感によって立ち上がった粒子とハイコントラストで「大阪」が映し出されており、またもや私に「写真を撮りたい」と思わせた。
森山氏が、数年前からリコーのデジタルカメラを使い始めた事は周知の通りだが、最近はニコンを使っているそうだ。しかし、満足のゆくデジタルカメラにはまだ出会えていないそうで、これは、私も含め多くのストリートフォトグラファーの悩みであろう。
ウイリアム・クラインの「NEW YORK」に影響を受けた森山氏は、1970年代初頭にもNYに滞在していたことがある。かつて、メルティング・ポット(人種のるつぼ)とも言われ、人もモノもみんなごちゃ混ぜになっているNYにいると、直感的に体内でスパークする瞬間があるのだと言う。そのシーンは、人とモノと森山氏との交錯の繰り返しによって生まれるものなのだろう。当時、滞在中のNYで、ジョン・レノン、ジャスパー・ジョーンズ(画家)と出会った森山氏、写真家としてのスタートはそこにあり、NYは恋人だと語る。
私がNYへ来て半年ほど経った頃だったろうか、ストリートで獲物を探す鋭い「視線」を感じ、その視線の持ち主に声をかけてみると、マグナムの写真家ブルース・ギルデンだった。学生の頃から作品だけは知っていたが、この運命的な出会いに、さすがNYだと感じたものだ。また、このトークショーの数日前、やはり私は偶然にもNYの街中で撮影中の森山大道氏に遭遇している。NYとはそういう街なのだ。
私自身、NYの生活が長くなって来たが、いつの間にか魅了され、離れられない恋人のような存在になってしまったのかも知れない。森山大道、ブルース・ギルデン氏のように、いくつになってもストリートに立ち続ける写真家でありたい。
写真:森山氏と棚井氏の参加する展覧会、レセプションにて
左:森山大道氏 右:棚井文雄氏