棚井文雄

ニューヨーク物語 9 「永遠のフィルム」

ニューヨーク物語 9 「永遠のフィルム」

 かねてから、写真家にとっての展覧会とは何であるのかを考えていた。写真がデジタル化され、インターネット社会に移行した現代、それは写真家にとって更に意識すべきものになったのではないだろうか。

 先月、”越前和紙の里”、”ふくい南青山291 “ の主催によって写真展を開催していただいた。僕はこの展覧会の為にニューヨークから一時帰国をしたのだが、これまでにない ”出逢いと再会” を体験することとなった。7〜10年振りに言葉を交わした友人、知人も多かったが、それは再会というよりも、新たな出逢いと言ってもいいほどの新鮮な出来事で、これからの時間をも想わせた。同じように、初めてお目にかかった方々ともすばらしい時間を共有し、そこにも未来に続く永遠の時を感じさせられた。

 この写真展には、元々ひとつの “再会” 計画があった。それは、”ニューヨーク物語8 “ に登場いただいた渡辺澄晴さんに、あることをきっかけに疎遠になってしまったAさんとの友情を取り戻してもらうことだった。僕はAさんとも15年以上に渡る交流をさせていただいており、事前に展覧会の案内状を送付しておいた。そして、おふたりは必ず僕のトークショーの日に来て下さると信じていた。そんな方々だからこそ、この計画を立てた。彼らを展覧会会場で引き合わせ、僕の展覧会という場に免じて何としてでも握手をしてもらおうと目論んでいたのだ。おふたりが会場に入ったことを確認するとすぐに、僕は渡辺さんに近づき「渡辺さん、Aさんが来てくれています。行きましょう」と言って、Aさんの目に前に連れて行った。初め彼らは少し緊張した趣だったが、すぐに言葉を交わし、渡辺さんが右手を差し出した。そしてしっかりと握手をしてくれた。この時点で僕はすでに泣き出しそうだったが、トークショーの間も2人は席を並べ、カフェでお茶をする姿も見かけた時には、言葉にならないほどの喜びを感じた。

 この日、1日目のトークショーが無事に終わったこと以上に、この2人がかつての友情を取り戻してしてくれたであろう様子がうれしくて、うれしくて、打ち上げでは記憶がなくなるほど飲んでしまった。気がつくと土砂降りの雨の中に一人佇んでいた。すると、びっしょり濡れた僕の髪を美女がタオルで拭ってくれている、そんな妄想をするくらいひどく酔っていた。結果、翌日のトークショーには2日酔いのまま登場するハメとなってしまった。しかし、全ての事情を知っていた展覧会会場の館長をはじめ、関係者がフォローをしてくれたことで難を逃れた、と思う (笑)。これも素晴らしい出逢いがあってのことなのだ。今回の展覧会での ”出逢いと再会”、それはこれからの僕の人生を更に豊かにしてくれるに違いない。

 ロンドン時代、100人を超えるポートレイトの撮影を行って感じたことがあった。人との出逢いは、一瞬かも、一日かも、一週間かも知れないが、その人(僕だけの一方的であったとしても)の受け止め方次第では、一生の関係、永遠の存在に成り得るのかも知れないと。事実、ロンドンでモデルになってくれた100人は、遠く離れてはいても、いつも僕の心の中に存在している。その永遠にはさまざまな時間(関係)があるのだろうが、それが大切だと感じたなら、その一瞬から広がる永遠の世界に駆け出し、それを捕まえておきたい、そう思って無意識のうちにシャッターを切っていることもあるのかも知れない。例えそれが心のフィルムであったとしても。
 
 2013.7.7

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