若林茂敬

自撮りで挑戦

自撮りで挑戦
第14回JPA公募展で金賞を貰った「勝利を願い精麻舞う」が自撮り写真だということで興味を持ってもらい、紹介記事を書くことになった。
第14回JPA公募展金賞受賞作品「勝利を願い精麻舞う」 撚り合わせる精麻の束を揃える様子

© Shigetaka Wakabayashi

5年間白根大凧合戦の凧組に入って凧作りから合戦までの記録撮影をしてきた過程で、幸運にも5~6年に1度の新綱作りに遭遇し、しかも若い縄綯師からの撮影許可をもらうこともでき張り切って撮影に臨んだ。しかし、太さ24mm、長さ150mの麻の綱を編む作業場は、前任者は家人さえも入れなかったと言うほど神聖かつ張り詰めた空間で、撮影用の勝手な願い事を言えるような雰囲気ではなかった。何度か撮影をさせてもらいながら、写真作品としてのイメージが膨らみ、必然的に自撮りを考え始める。
材料の麻、長さ2mの精麻50本と廃棄用の古綱3mを借り出し、自宅で撮影に挑戦。長時間露光で空中に舞う麻の輝きを出すためのバックと照明を考え、まず手芸店で濃紺の端切れを購入、自宅8畳間の壁面に上から下まで画鋲留めする。舞う麻を光らせるための照明は天井の蛍光灯で良しとし、顔の照明用には蛍光灯スタンドを1本床に置いた。三脚にセットしたカメラはNikonD800E、レンズはAF-S NIKKOR 24-120mm 1:4G ED、HDMIケーブルでカメラと16インチTVを結び、カメラをライブヴューにセットする。3mの延長ケーブルに繋いだケーブルレリーズは足で操作できるように5cm大のプレートでシャッターボタンを押すように改造。完成作品の構図を考えカメラの設置場所を決め、目線の先にTVを置く。連写にセットし、20~30枚を撮影するごとにパソコンのディスプレーで細部を確認しながら撮影を続ける。何回かの試し撮りの結果、露出は1/10秒、絞りは8が舞う麻の動きを最もダイナミックに表現してくれることが分かった。
前方に置いたTV画面をにらみながら右手で25本の精麻の束を放り投げ、左足の小指でシャッターを押し、2時間で300枚ほど撮影するが、満足できるショットは数枚。構図を変え正面から撮ったり、横から撮ったり、また別の日に撮ると全く違う作品が撮れたりするから止められない。
最近若い人達が自撮り棒の先にスマホを付け盛んに自撮りをしているので、自撮りが非常に身近なものになった。人のスマホの横で重く大きなカメラのシャッターを切るのは何か変な気分になる。しかし高機能のカメラの性能をフル活用しての自撮りの世界は綿密な設計のもとにシャッターを切る必然の写真の世界でもあり、重厚な作品作りと重なり満足感を大きく高めてくれる。

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