ニューヨーク物語 「写真が繋ぐステキな出逢い 2」
現在、僕が作品制作に参画しているアーティストのSanaeさんから、「友人でバレリーナの貴子さんと、そのお母さまの照恵さんが日本から遊びに来ているので、ぜひ紹介したい」と言われていた。しかし、その機会なく貴子さんは帰国されてしまった。
バレエと言えば、我々JPAには、その世界では言わずと知れた写真家、飯島篤氏(名誉会員)がいる。日本人バレエダンサーとして初めて国際的に活躍した、 ”世界のプリマ”森下洋子さん、その多くの写真集は飯島氏の撮影によるものだ。かつて、僕がJPAの理事になったのも飯島氏の存在が大きく影響しており、氏の言葉と、あの人柄をなくしてこの仕事をすることはなかったであろう。僕自身は、これまでバレエとの関わりは少ないが、以前、フラッシュライトによって演出(注1)されたヨーロッパのバレエ公演や、ニューヨークに於いて、アメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルでもあった、ホセ・カレーニョのポートレイトを撮影したことがある。
Sanaeさんに飯島氏のことを話すと、先日、お母さまの照恵さん(バレエスタジオ代表)と共に僕のアパートを訪ねてくれた。話を聞くと、照恵さんは飯島氏が撮影した迫力ある森下洋子さんの姿に感銘を受け、そこに(森下さん同様に)小柄な自分の姿を重ねていたという。飯島氏の写真は、若き日の彼女の支えとなっていたのだ。また、お嬢さんの貴子さんの舞台を飯島氏の元で学んだ写真家が撮影したこともあるそうだ。この話をきっかけに、僕たちは人生論から政治・社会問題まで様々な話題で盛り上がることとなった。照恵さんは子供の頃、バレエの稽古が出来ない環境にあり、窓からレッスン風景を見つめるだけの日々が続いた。やがて、彼女の情熱を知った兄弟やバレエ教師のサポートもあって、努力を重ねながらこの道を突き進んで来た。欧米での研修経験も多く、世界をまたにかけたその人生は波乱万丈だ。それは、発する言葉からも感じられるほどのあり余るパワーにもよるのだろう。
「一緒に写真を撮りましょう」、そう言われて照恵さんの隣に並ぶと、彼女は腕組みをすると同時にスッーと片脚を引き上げポーズを決めた。僕がその真似をすると、「同じポーズをしてはダメ」と指導が入った。もっと背筋を伸ばして!とも(笑)。当然といえば当然であり、僕が語るにはおこがましいが、絵作り、モノの見せ方(表現)を熟知している。デジタル化によって、よりハイブリッドなメディアとなった写真、それによって進化せざるを得なくなった写真作家の生き方。こうした異なる世界の「見せ方」の中に、これからの写真作家のあるべき姿のヒントが隠されているかも知れない。
(注1) カメラのフラッシュのような強い光を点滅させ、発光した瞬間だけ舞台を浮かび上がらせる。迫力のある衝撃的な演出を生み出す。
2015.1.30
photo&text: 棚井文雄 / Fumio TANAI / HJPI320610000334