棚井文雄

ニューヨーク物語27「ニューヨークで覚えた”冬の贅沢”」

ニューヨーク物語27 「ニューヨークで覚えた”冬の贅沢”」

 「シューシュー」、「カンカンカン」、
 ニューヨークではこの時期になると、こんな音が鳴り響く。
東京のような比較的温暖な環境で育った僕には、ニューヨークの冬は本当に身に堪える。よく晴れた日に、青空の中を颯爽と通り抜けて行くあの飛行物体を見かけると、「あぁ、あれに乗ってどこか暖かい所へ行きたい」と、いつも思う。
 日本に住んでいた頃には、久しく手袋なんてものを使った記憶はなかったが、日中でも氷点下が続き、大雪も降るニューヨークの冬にはマフラーと共に欠かせない。しかし、そんな都市だからこそ、とても素晴らしいシステムが普及している。真夜中の「カンカンカン」という激しい音に慣れるまでは、何度も、「ビクッ」とさせられたが、この設備のお陰で、部屋中どこへ行っても暖かい。キッチンへ行こうが、バスルームへ行こうが、空き部屋までも常に同じ室温だ。旭川出身の友人が、「実家の床暖房もこんな感じ」とは言っていたが、かつてどこかで観た映画かTVドラマの主役たちのように、真冬に家の中を短パンとTシャツでウロウロ出来るのはとても快適で、何とも言えない幸せが感じられる瞬間だ。「シューシュー」というスチームの音でさえ、心地よく聞こえてくる。

 今年のはじめ、旅行者から置きみやげにもらった「ユニクロ」のタイツを試着してみたのだが、ぴちぴちで何とも気持ち悪く、しばらくは使用しなかった。しかし、マイナス15度を記録するようなニューヨークの冬、一度履いて外へ出たらこれがやめられない。なぜ、この何年間も「寒い、寒い」と言いながら真夏と同じジーパンを履いて撮影に出かけていたのだろう、そう後悔させられた。そんな厚着をして外出せねばならないニューヨークだが、家に帰れば部屋はヌクヌク、すぐに裸同然になれる。だからこそ、こんな極寒の街でもやっていけるのだ。

 ニューヨーク市には、冬の間、(アパートのオーナーは)外気温が一定の温度以下になった場合、室温が20度になるように暖房を稼働させなければならない、という条例がある。また、一年を通してお湯が出るようにもなっている。多くの場合、ビルの地下室にボイラーが置かれ、各部屋に鉄管で繋がれたラジエーター(放熱器)へスチームを送る暖房システム、セントラルヒーティングを使用している。ラジエーターは、リビングにもキッチンにも、バスルームにまでも設置されている。至ってシンプルな構造だが、これが壊れたりすると日本のような素早い対応を期待するのは難しく、修理の数日間はヒーターがつかないなど、悲惨なことになるのだ。中には、経費を節約するためにボイラーの温度設定を低めにするなど、悪質なオーナーも存在する。その点、僕のアパートは設定温度が高いのか、誰が来ても、「ここは暖かいね〜」と言うほど、快適なのだ。

 「ニッポンの冬(家の中)は、つらいよ」。再三に渡り、ニューヨーク経験のある友人からそうは聞かされていたが、久し振りのニッポンの冬は本当にキツイ。ホットカーペットの上や、ファンヒーターの前から動くことが出来なくなってしまう。しかし、思い起こせばロンドンで借りていた部屋は寒かった。どこかのアパートのオーナーのように、電気代が高いからとセントラルヒーターの設定温度は低く、稼働時間も極めて短い。朝は、9時頃からしか作動せず、夜は8時には止められてしまう。お屋敷とはいえ、個人宅の屋根裏を借りていた為、例え、市の条例があったとしてもここには及ばない。同じような境遇の友人は、あまりの寒さに部屋の中でも一日中ダウンジャケットを着ているという状態だった。そう思ったところで、あのセントラルヒーターのヌクヌクを知ってしまった身体は、もうどうにも言うことを聞いてくれない。
 日本には、「冬の寒さは、ある程度は我慢せよ」みたいな雰囲気があったように思うし、人感センサー付きの優秀なエアコンも普及し始め、家全体を温めたいだなんて、贅沢以外の何モノでもないと言われてしまいそうだ。
 ところで、置きみやげにいただいた「ぴちぴちのタイツ」だが、後に女性モノのLサイズだということがわかった(笑)。

2015.11.30

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